特になんの予定もない休日。暑くもなく、寒くもない、全くもって普通の日だ。
暇をもてあました私は自宅の近くを散歩してみることにした。私の自宅は小高い山の上にあり、近所には雑木林があった。
雑木林の散策道を何気なく歩いていると、奇妙な風体をした男に出合った。とても現代の社会人にはありえないような、あたかも魔法使いのような服を着ていた。
男は老人のようでもあり、なんらかの病によって老け込んでしまったようにも見えた。
男は私に泥団子のような土塊を手渡した。
「この道具を使えば、少しだけ時を遡ることができますよ。」
「ただし、使いすぎるとあの男のようになってしまいますよ。」
男が指差した先は、雑木林のさらに奥。ぼろぎれを被った、いかにも廃人です、と言わんばかりの人物がぼうっと立っていた。荒れ果てた肌に空虚な瞳。折れてしまいそうなほどひんまがった腰に、枯れ枝のような腕。それが本当に「人物」であるかも疑わんばかりに空虚だった。
私は『それ』を学校に持っていった。
私は男の忠告を覚えていたため、まずは人に試させてみることにした。とりたてて大切だとは思わないような、ただのクラスメイト。
「それを軽く叩いてみてごらん」
クラスメイトは歓喜して応えた。
「私、時をさかのぼった!それで今戻ってきたの!」
あらためて『それ』をよく見てみると、『それ』の中に青白く光る粉末のようなものが入っていることに気づいた。
また、その粉末は『それ』を使用するたびに減少していくようだった。
ふと、クラスメイトを見るとほんの少し、ごくわずかだけやつれているように見えた。私は『それ』を使用することによる悪影響に気づいた。
私はまだ『それ』を使用しなかった。
その後、親友が『それ』の存在に気づいた。
「『それ』を使わせろ」
私は『それ』を肌身はなさず持ち歩いていたため、『それ』は柔らかくなってしまっていた。外側はただの土塊なのだから。
私は『それ』を使わせることを断った。親友の体に悪影響が及ぶのを避けたかったからだ。
「お前はいつもそうだ。上から目線でなにもかも決めつける。」
友人は私から強引に『それ』を奪って、力いっぱい叩き潰した。
『それ』はすべて消滅してしまい、後には私と、枯れ枝を人形にしたようなかつて友人だったもの、それだけが残った。